小池真理子の「欲望」を読んだ! | 三太・ケンチク・日記

小池真理子の「欲望」を読んだ!

端境期」ということで、読む本と読む本の間に読んだ本ということで、小池真理子の「」については、今年の1月に記事にしました。全体的に陳腐な作品で、官能的というわりには官能的でない。確かに表紙は官能的ですが、この程度の本がなんで直木賞なの?と言いたいわけです。と、大いに皮肉を込めた記事でした。藤田宜永の「愛の領分」、偶然にも、本にも「端境期」のようなものがある、という書き出しで、10月の初めに記事にしました。読み終えた感想として、十分に齢を重ねた男が、やはり愛にも領分があったのだと気付くというお粗末な結論で、これが直木賞受賞作?、という疑問を呈した記事でした。

小池真理子の「恋」!?
藤田宜永の「愛の領分」を読んだ!



三島由紀夫邸を寸分違わず模倣した変奇な館に、運命を手繰り寄せられた男女。図書館司書の青田類子は、妻子ある男との肉欲だけの関係に溺れながら、かつての同級生である美しい青年・正巳に強くひかれてゆく。しかし、二人が肉体の悦びを分かち合うことは決してなかった。正巳は性的不能者だったのだ。切なくも凄絶な人びとの性、愛、そして死。小池文学が到達した究極の恋愛小説。


1996年に「」で第114回直木賞を受賞後、1997年、2年ぶりに書き下ろされた長編小説が「欲望」です。384ページの分厚い力作ですが、だが「小池文学が到達した」とはお世辞にも言えない、内容は陳腐で、安っぽいありきたりの小説でした。


主人公は、図書館の司書として20年も働く類子。たまたま入った「東京回顧写真展過ぎ去りし宴」という写真展で、そこに写っていたのが「袴田邸新築記念パーティ」。その様子が、類子に昔を思いさせることになります。類子阿佐緒正巳は、中学時代からの同級生、女らしく妖艶で男性の注目の的である阿佐緒、美しく知的な少年正巳、類子は美人でもなく、ごく普通の平凡な女性です。正巳は阿佐緒に引かれ付き合い始めるが、交通事故により性的不能となったあと阿佐緒と別れます。類子はそんな二人をみながら、正巳に惹かれていきます。作品の中で随所に、正巳から類子への手紙が使われます。あまりにも説明的すぎます。果たして、この手紙が必要だったかどうか?正巳が身体を使って外で働く造園業者というのも、納得できない設定だと思います。


肉欲を伴わない精神的な快楽を求める気持ちと、妻子ある男と異様なまでの性愛にふけるという、類子の中に両立して存在します。阿佐緒の歳の離れた夫袴田の三島由紀夫的なところが取り上げられ、共に読書好きな類子と正巳の間にも、三島由紀夫の作品について何度か話題にのぼります。しかし、三島由紀夫については、ここ作品の中ではほとんど空回りです。ラストが、まったく陳腐です。阿佐緒は袴田に買ってもらったばかりの自動車に乗り、自動車事故であっけなく亡くなります。正巳は遊泳禁止区域に自ら入って泳ぎ始め、戻ってきません。この二人の死に方は、いかにもありふれていて、簡単に想像がついてしまいます。


袴田の居所を当たってももらっていた写真家から電話があり、袴田の行方がわかります。類子は「女性で朗読の仕事」に応募して、檜原村に住んでいる袴田に会いに行きます。ここでも三島由紀夫の「豊饒の海」四部作の第四巻「天人五衰」が出てきます。類子がパーティの時に拾い上げた楓の落ち葉が、正巳の手に渡り、それがこの本の間に挟まっていた、しかも、その本は三島由紀夫邸を模して建てられた袴田邸の火災現場から奇跡的に1冊だけ運び出されたというのです。こんな陳腐な偶然はあり得ないです。


「何故、いまごろになって、私に会いにいらっしゃったのですか」と袴田に聞かれると、類子は「ただ、袴田さんにお会いしたかった。それだけです。」と言いながら、「かつて誰よりも深く愛した人が、あなたとどこか似ていたから・・・」、そう言ってみたい気持ちにかられたが、言えなかった。あれっ、なにそれ?つまり、この作品、「ありえね~」の連続で、至る所に作為が見え隠れしていて、リアリティがまったく感じられません。そうこうしているうちに、「欲望」映画化のニュースが!こういう映画は話題性もあるし、けっこう当たるのかもしれませんが、小説としてはテレビドラマの脚本の域を出ません。



男が不能になったら…「欲望」深く濃く描く映画
愛=SEXでないと多くの人が認めるだろう。では逆に、SEXなしに真の愛は成り立つか。この秋注目の恋愛映画「欲望」(11月中旬、東京・渋谷のアミューズCQNで公開)は、“男が不能になったら…”というテーマに真っ向取り組む。原作は女性に絶大な人気がある直木賞作家、小池真理子氏の同名小説だ。愛の深遠さを濃厚に描いた篠原哲夫監督は、「小池さんは、“性”を介在させる愛のありようを追求してきた方ですが、『欲望』では不能になってしまう男の側から描いている。なるほど、その手があったか、と衝撃を受けました。SEXはできないが、欲望はある。そんな場合、女性は精神的なかかわりを深めようとし、そうならざるを得ない、と」主人公の類子(板谷由夏)は、20代後半の独身。同僚の五郎(大森南朋)との不倫で肉体的な快楽を享受している。本物の“愛のムード”に酔える大人の映画。男を“卒業”していない人なら、必見だ。
夕刊フジ:10月17日


映画「欲望」HP