「アマゾンで地球環境を考える」 | 三太・ケンチク・日記

「アマゾンで地球環境を考える」


K駅からバスに乗って会合のある知人の家に近づくと、窓の外に幹事役のMさんと、もう一人の方が歩いているのが見えました。バスを降りて待っていると、二人が追いついてきました。もう一人の方がその日の講師西沢利栄先生でした。彼らはその近所のおでんが美味しいと評判の店で、昼間から おでんを食べてきたという話。もしかしたらお酒も少し入っていたのかもしれません。西沢先生はアマゾンの自然を調査して30数年、地球最大の熱帯雨林アマゾン川の豊かさ、開発の実体保全への努力などを、ご自身で撮られたスライドを使いながらお話ししてくれるということなので、期待して出席しました。


西沢利栄先生は1929年生まれ。東京教育大学理学研究科修士課程修了。理学博士。立教大学教授、筑波大学教授、東京成徳大学教授を歴任。専門は地理学、環境科学。とあります。なにしろ経歴は凄い、偉い先生なんですね。なにも知らない僕は、始まる前に、さっそく質問。先生は何を専門としているのかということ。どうしてアマゾンと関わり始めたのか、先生の風貌に接して、まったく繋がらなかったからです。その答えは「気象学」ということでした。アマゾンと言うからには、もっと体格のがっしりした無骨な人かと思っていたものですから。


西沢先生は、ブラジルの仕事を始めてから34年、この間の研究は、熱帯ブラジルの半乾燥気候の有刺灌木林湿潤気候の熱帯雨林を対象にした木々の性質とその社会のようすを調べることだったと言います。「ブラジル熱帯雨林を保護するためのパイロット・プログラム(PPG7)」のプログラム発足当時から1999年目での6年間、国際諮問委員会の委員を務めてもいたそうです。


なぜアマゾンなのかは、疑問の湧くところです。アマゾンは地球環境を考える上で、最もふさわしい場所だそうです。最大の熱帯雨林、最大流量を誇る大河川、計り知れない生物多様性、そして大規模農業を目的とした開発も巨大です。アマゾン川をたどりながら、自然の姿と人々の暮らしを眺め、熱帯雨林と大河川の存在、巨大開発が地球環境に及ぼす影響を、今回書かれた本では詳しく考察しています。



そもそもアマゾン地域とはどういうところなのか?アマゾン地域は、地球上に存在する三つの熱帯雨林の一つです。アフリカのコンゴ川流域の熱帯雨林東南アジアに拡がる熱帯雨林、そして、アマゾン川流域を中心とし、アンデス山脈西方地帯とメキシコにまで広がる中南米の熱帯雨林です。この三つの熱帯雨林地域の全面積は、地球の全面積の7%を占めるにすぎませんが、この地域に生存する植物体の量は、地球上の陸上植物の41%生産量では30%を占めているというから驚きます。ところが、経済優先の波がこれらの熱帯雨林を伐採し、貴重な熱帯雨林は消滅と破壊の危機に瀕しています。


昨年、ブラジルは「アグリビジネスの巨人」と言われるようになりました。穀物メジャーが地球最大の熱帯雨林を大規模に伐採して、大豆生産を拡大しているためです。人工衛星から撮った写真でも、緑が切り開かれて、表土が露出したようすがよくわかります。アマゾンの熱帯雨林が大変な危機に瀕しているのです。ブラジル政府も保全のために、伐採禁止地帯を設定したり、保全型農業を推進したりして頑張っていますが、なにしろ大型機械でガシガシと切り倒していくのにはかないません。


では、熱帯雨林が失われるということは、どうして人類にとって憂慮しなければならない状況なのでしょうか?第一は、人間が生きることを支えてくれる環境、つまり生存環境が奪われていくことにつながるからなのです。第二は、価値のある生物資源を失うことにつながるからです。さらに、熱帯雨林の消失は気候環境や水文環境のバランスを壊します。また、熱帯雨林の伐採は、大気中の地球温暖化効果ガスの二酸化炭素濃度を高め、地球温暖化を促進します。


この本「アマゾンで地球環境を考える」という本の表紙が面白い、素晴らしいイラストです。やはり学者が書いた本、やや数字やグラフが多いこともあります。岩波ジュニア新書、中高校生向けとは言え、けっこう難しい本ですね。この本を読んで、大自然の豊かさと不思議さを楽しみながら、地球環境問題についても考えて観るのも一興かと思います。


「アマゾンで地球環境を考える」
著者:西沢利栄
発行:2005年8月19日
発行所:岩波書店、ジュニア新書
定価: 819円(本体 780円 + 税5%)