「プラート美術の至宝展」を観た! | 三太・ケンチク・日記

「プラート美術の至宝展」を観た!


損保ジャパン東郷青児美術館は、1976年7月に美術館を開館ですから、もう30年近くも経つんですね。当初は安田火災東郷青児美術館でした。どうして東郷青児美術館なのかと思い調べてみたら、美術館発足時に東郷青児が美術館設立の目的に共鳴し、所蔵の自作約 200点と自分が収集した内外作家の作品約250点を寄贈したそうです。それでいつまでも頭に名前が付いているんですね。どんな素晴らしい企画展でも、最後に東郷青児を無理矢理見せられるには、それなりのわけがあったんですね。


フィリッポ・リッピ「身につけた聖帯を使徒トマスに授ける聖母」

1987年10月には、フィンセント・ファン・ゴッホの「ひまわり」を購入して、世間をアッと驚かせました。1989年1月にはポール・ゴーギャンの「アリスカンの並木路、アルル」、1990年1月にはポール・セザンヌの「りんごとナプキン」が加わり、展示内容が一躍充実いたしました。ゴッホの1888年の作品「ひまわり」、ゴーギャンの1888年の作品「アリスカンの並木路、アルル」、セザンヌの1879年頃の作品「りんごとナプキン」、この3つの作品が、一室に常設展示してあります。西新宿の超高層ビルの42階にある美術館ですから、落着いた雰囲気で、しかも展望回廊からは東京都心を見下ろす眺望は、なかなか素晴らしいものがあります。


フィリッポ・リッピ「聖ユリアヌスを伴う受胎告知」

さて今回の企画展は、「プラート美術の至宝展―フィレンツェに挑戦した都市の物語―」です。プラートは、イタリアのトスカーナ地方フィレンツェから北西に約15km程離れた小都市です。市内の教会や政庁が中世以来の美術品で満たされている街で、14~18世紀の絵画や資料・約60点が今回展示されています。まず、見終わった感想から言いますと、最初の約半分は、本当に素晴らしいものばっかりで、比較的空いていたこともあり、時間が経つのも忘れるぐらいじっくりと見て回りました。フレンツェには2度ほど行ってますが、今回の展示ではウフィッツィでは見られないものもたくさんありました。これは得したなと思いました。まあ、あとの半分は、時代も新しくなり、それなりに、という感じでしたが。


ルドヴィコ・ブーティ「身につけた聖帯を使徒トマスに授ける聖母」

ボッティチェッリに影響を与えたということで、初期ルネサンスの重要な画家、フィリッポ・リッピが取り上げられています。フィリッポ・リッピの描く聖母子像は、優美で清らかで、素晴らしいんですよ。ウフィッツィには、フィリッポ・リッピの部屋があり、「聖母子と二天使」や「聖母の戴冠」があります。僕が聖母子像が好きだというと、皆さんに笑われそうですが、事実ですから仕方がありません。2年前にも目黒区美術館で開催された「聖母子と子供たち展」にも行きました。フィリッポ・リッピはカルメル会の修道士画家でした。なにしろ遊び人で、落ち着きのない反逆的な性格だったようです。とにかく早く絵を完成させるようにと宮殿に幽閉されたときも、シーツを引き裂いて窓から逃亡したという逸話が残っています。


ラッファエッリーノ・デル・ガルボ「聖母子と幼き洗礼者ヨハネ」

その彼が聖母像のモデルに頼んだ尼僧のルクレツィア・ブーティ恋仲になり、駆け落ちして2人の子供までもうけたということは、当時の良識ある人々の目にはとんでもない大事件だったようです。しかし、メディチ家の老コジモは、リッピの芸術は、未曾有の神から授け物と考え、「稀なる才能は天からの顕現であって野卑なロバの如くではない」と言ったと伝えられています。フィリッポ・リッピの工房からやがてルネサンス絵画の傑作を生むボッティチェッリや、息子のフィリッピーノ・リッピが育つんですね。今回は、祭壇画「身につけた聖帯を使徒トマスに授ける聖母および聖グレゴリウス、聖女マルゲリータ、聖アウグスティヌス、トピアスと天使」、という長いタイトルの祭壇画がメインに展示してありました。小さいものですが「聖ユリアヌスをともなう受胎告知」という作品もリッピの作品です。


ベネデット・ダ・マイヤーノ「聖母子」

プラートという街は「聖母マリアの帯」がある街で知られています。伝説によれば、帯は聖母が死後、天に引き上げられる際に残したものです。14世紀、プラートの美術は、まずこの「聖帯」を中心テーマとして形成されたそうです。プラートは、常に巨大都市フィレンツェの侵略に脅かされながらも、信仰と美術が民心をまとめる象徴だったそうです。今回の展示は、出品作品を都市の歩みに沿って、「聖帯伝説による愛郷心の創出」、「聖母信仰」、「カトリックの世界的プロパガンダ」、という三つの観点から読み解きます、とあります。そう言われてみると、ちょっと判ったような気がしてきました。感動のあまり、普段はほとんど買ったことにない「図録」まで買ってしまいました。


損保ジャパン東郷青児美術館