「朗読者」再読!  | 三太・ケンチク・日記

「朗読者」再読! 


今年の初め頃だったと思いますが、イギリスのチャールズ皇太子の次男ハリー王子が友人宅で開かれた新年の仮装パーティーにナチス・ドイツの兵士に扮した姿で参加して問題になりました。王子はすぐさま謝罪しましたが、父親のチャールズ皇太子は、ハリー王子が衣装店でナチスの制服を選ぶのを、一緒にいたウィリアム王子がやめさせるべきだったと判断します。そして、2人にアウシュビッツへ行ってホロコーストについて勉強したり、第2次大戦中に1200人のユダヤ人の命が救われた実話を描いた映画「シンドラーのリスト」を観るよう伝えたといわれています。


BBCは昨年12月、イギリスの16歳以上の4000人を対象にホロコーストに関する世論調査を実施しました。アウシュビッツの名前すら一度も聞いたことがないと答えたのが全体の45%にのぼったそうです。しかも35歳未満では60%を超え、若者の間でホロコーストに関する知識が乏しくなる傾向が顕著だったという背景があります。今年はホロコースト60周年でもあります。


なぜか、本棚の一番前の見えるところにこの本「朗読者」が、長い間置いてありました。2000年4月の発行ですから、よくある翻訳物に違わず、粗末な紙を使っていることもあり、やや黄ばんできています。確かこの本は、発行と同時に購入して読んだと思います。改めて表紙を見てみると、卵形の浮かんだもの2人の男女が腰掛けています。男は本を広げて読んでいるようです。こんな表紙だったのかと思わず食い入るように見つめてしまいました。なぜか急に思い立って「朗読者」を再読してみました。


15歳のミヒャエルは、母親のような年の女性ハンナと、ふとしたきっかけで恋に落ちます。そして彼女の求めに応じて本を朗読して聞かせるようになります。ところがある日、彼女は突然、失踪してしまいます。彼女が隠して忌まわしい秘密とは何だったのか・・・。


ここまでは、センセーショナルですが、ありふれたテーマでもあります。しかし物語は、ナチス時代の犯罪をどうとらえるのかという、重いテーマへと移っていきます。彼女の突然の失踪に傷つき、法廷での再開後に知った彼女の過去に苦しみ、それでも彼女に10年間も刑務所に朗読テープを送り続けた彼の律儀さ、粘り強さは、ドイツ人らしさが表れています。


ついにハンナの恩赦が決定し、ミヒャエルは刑務所へ会いに行きます。「大きくなったわね、坊や」と、昔と変わらないハンナ。面会時間は過ぎていきました。「元気でね、坊や」「君も」二人の別れの挨拶・・・。久しぶりに翻訳ものを読み直しました。しかも良質の翻訳ものを・・・。


「朗読者」新潮クレスト・ブックス
著者:ベルンハルト・シュリング 
訳者:松永美保 発行:2000年4月


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